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瓜連まちの風土記 第23巻

瓜連まちの風土記 第23巻

古徳沼と自然

 

【古徳沼の水辺の景観と植物】
生命が集う博物館

 生命を魅了する水辺のチカラ
23表紙
◆古徳沼は昔からそこの地域の人々に愛され続けている。
◆地域の人々だけでなく植物や鳥などの動物、虫などたくさんの人やモノたちから愛されている。
◆古徳沼には、多様な生命を引き寄せる秘密がうめこまれている。

古徳沼は、白鳥の飛来で語られることが多い
のだが、水辺の生態系の豊かさもたいへん
興味深い。それらもまた瓜連の人々が、時を
超えて手を入れてつくりあげたものである。
23-03

ふところの深い多様な自然は、ありのままの
自然、すなわち放置したままの空間で整うような
ものではない。観光地のそれのように、人工的に
つくりこんでできるようなそれではない。人の
暮らしと密接に結びついて、適度に入り、時間と
手間をかけて守り続けてはじめて形成される
ものである。
23-05

里山を整え、多くの生き物と共存してきた日本人
はいにしえの時代から、そうした世界を整える
ことに長けた能力を発揮してきた。
ところが、そうしたチカラは年々衰え、忘れられて
いく傾向にあるように思う。
そうであるからこそ、人がつくった古徳沼を糸口
にして、日本人の遺伝子に組み込まれたその
チカラを思い出す旅に出かけてみよう。
23-07

瓜連のまちの中心から古徳沼までの道は、
広大な田畑をまっすぐ貫いている。
その自然豊かな道をのんびりと歩いていく
だけで、道草が茂り、小さな生き物たちが
動きまわってたくさんの足あとをみつける
ことができる。
23-09

自動車や自転車の通りも少ない道を歩いている
だけで、田園風景の静寂を楽しむことができる。
隣を吹きぬけていく風の音やにおいを感じる
こともできる。
そして、瓜連の静けさを体験してみるだけで、
いま私たちが生きている情報過多の世界の
限界がみえてくる。
23-11

古徳沼は集日を小さな山に囲まれている。
天気のよい日には水面が光り、より美しい
風景となる。
沼の奥の山から吹き下ろす風はするすると
肌を滑り心地よい。どこからか緑のにおいや
花の香りが届いてくる。
沼面を観察していると、鳥が何羽も泳いだり
水浴びをしている。彼らが奏でる小さな水音が
ここちよく聞こえてくる。
23-13

ここは、本当に大切なモノだけでつくられた
ミニマムな世界で、人の心をしずめ、解放する。
目に映るモノ、静寂の中のかすかな物音、
自然の香り、心地よくからだを包み込む大気を
感じ、五感が研ぎ澄まされていくような感覚を
味わうことができる。
23-15

古徳沼はいろいろな鳥が季節ごとにやってくる。
それゆえ、バードウォッチングポイントとしても
有名で、まわりの風景とともに写真におさめる
人々が後を絶たない。
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はじめて聞く鳥の声もあれば、はじめて姿をみる
鳥もある。冬にはオオハクチョウ・コハクチョウ、
ホシハジロなど有名どころもやってきて、鳥たちの
社交場に姿を変える。
そして、昔も、そして現在も変わらずに鳥たちは
古徳沼を訪れ、帰ってくる。
古徳沼は、鳥たちにとってのふるさとになって
いる。
23-19

そして、古徳沼周辺は、アシやヨシが生い茂った
多様な自然の美を堪能できる。
そこに、ゴミがまったく落ちていないことに驚かさ
れる。そして、つくり込まれた庭とは異なる美しさと
それを維持してきた人々のチカラを感じることが
できる。
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沼のほとりは人々の憩いの場であり、まちの
人々は沼を汚さないよう、まちを汚さないよう、
常に気を配っている。
23-23

地域の人々があたりまえのことをあたりまえに
することで整えられた環境だからこそ、鳥は
たくさん飛来し、植物ものびやかに生い茂り、
いろいろな虫や生き物が集まってくるのだろう。
23-25

多様な自然の美と、それを維持してきた人々の
チカラが織りなす、多様な生き物の共存する
世界、それこそが瓜連の宝物である。
あなたも、忘れかけた自分のチカラを思い出す
旅に出かけてみてはいかがだろうか。
23-27

 

 

 2015年3月20日 発行
著 者 :西野 万里子(日本地域資源学会)
写 真 :森作 勇哉(常磐大学コミュニティ文化学科)
監 修 :塚原 正彦 常磐大学教授
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