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瓜連まちの風土記 第38巻

瓜連まちの風土記 第38巻

北城地区と田園風景

 

【森と畑の計画された美しさ】
光と風と大地の美術館

 季節を読み、大地を育みながら至高の
 芸術作品をつくりだすアーティストの
 知と感性にふれることができる
38表紙
◆瓜連の静かで落ち着いた風景に溶けこみつつも、きちんと手入れされ規則正しくならんだ野菜たちが主役の畑は、大きな存在感がある。
◆畑は、光と風を読みながら、大地のチカラを知り尽くした匠がおいしいをいただくためにつくったものである。
◆彼らが、手塩にかけて育てた野菜を家族そろっていただく食卓は、おいしい笑いにあふれている。

田園風景に魅力を感じる人は多い。
日本人だけではない
海外からの観光客にも人気である。
都会生活に疲れたOLは
田舎の緑と風に癒しを求めている。
38-03

そこに住んでいる人だって
四季折々の田園風景には心ひかれる。
春の息吹を感じる草花
控えめで、それでいてとりどりの花の色
夏の青々とした水稲のじゅうたん
秋の黄金色の稲穂
冬一面の雪景色
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ジブリのアニメを熱狂的に支持するファンは
世界中にいるし、そういう人達はアニメの
世界でていねいに描かれる「古き良き日本の
田園風景」を美しいという。
そこには大人も子どもも、男も女も、国の違いも
超える魅力があるにちがいない。
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さあ、瓜連を歩いてみよう。
右に左に、見渡す限りの畑
稲の刈られた田んぼ
遠くに見える森までずっと平坦な風景。
車のエンジン音がやたらに耳障りだ。

半分閉じた目では、
なにもない田舎の風景にしか見えない。
38-09

もう一度、深呼吸して歩きだしてみよう。
あれ、なんだか畑がきれいである。
畑しかないけど
その畑から目が離せない。
どうしてだろう
38-11

確かによく区画整理されている。
平行に植えられて雑草一つない。
ぴかぴかの太陽に照らされている
たくさんの野菜たち。
でもそんな畑、田舎では珍しくないのに
なぜこんなにきれいなんだろう。
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瓜連にしかないものはなんだろう。
もういちどよく見てみる。
畑の後ろに余分なものがない。田舎の雰囲気を
壊す建物がない。余分な音があまりない。
車もめったに通らない。
たまに聞くエンジン音だから耳障り。田んぼと
畑と森以外ないから、殺風景だけど、その
殺風景さが畑を際立たせている。
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畑で作業しているおばあちゃんたちがたくさん
いた。何人も声をかけたけど、みんな何度も
呼ばないと気づいてくれなかった。
天気は快晴である。若者でさえ息があがるのに、
おばあちゃんたちは腰を低くするつらい恰好で
汗水垂らして本気で畑を面倒見ていた。
「精が出ますね」清々しい笑顔だった。
38-17

おばあちゃんたちは、賢者の知恵を備えた
大地のアーティストだった。
自分の土地をだれよりもよく知っていて、
どこに、なにを植えたらいいか、なにに気を
つけなきゃいけないか、みんなわかっている。
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野菜の声と土地の声に耳を澄ませ、季節を
感じて天気を読む。土と水と光の力を正しく
使って、色鮮やかなとりどりの野菜を大地
というキャンパスいっぱいに描いていく。
自然の恵みに感謝しつつ、自分にできる
精一杯の努力をしながら。
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そうして正しく手入れされ、規則正しくならんだ
野菜を携えた畑は、大きな存在感があった。
なにもない、瓜連の静かで落ち着いた風景に
なじんで溶け込む。
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この手塩にかけて育てた野菜を食べる食卓は、
きっとそのおいしさからにじみ出る笑みに
あふれている。そうして、瓜連のまちの家族の
幸せを鮮やかに彩っている。
大地のアーティストは生活のアーティストでも
あるのだ。
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私も、今度は夏に来て、この畑で育てられた
きゅうりを食べてみたい。瓜連のまちの、
幸せのおすそわけが欲しくなった。
38-27

 

 

 2015年3月20日 発行
著 者 :西野 万里子(日本地域資源学会)
写 真 :森作 勇哉(常磐大学コミュニティ文化学科)
監 修 :塚原 正彦 常磐大学教授
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