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額田まちの風土記 第2巻

額田まちの風土記 第2巻

額田城

 

暮らしに寄りそう大きなお城 額田2-表

あなたは

お城と聞いて何をイメージしますか。
お城を作ったのは、
領地をめぐって争い、
戦にあけくれた武将たちです。
彼らは、
お城に住んで、まちを守った。
夢を実現するために
いろんな決まりごとをつくった。
額田2-3

お城というと多くの人は、姫路城や
この前の地震でこわれてしまった
熊本城をイメージするでしょう。
大きくて美しいそれは、
守らなければならない大切な文化財で、

日本のシンボルのような存在です。
しかし、そういうイメージで
お城を理解してしまうと、
お城は鑑賞するモノになります。
それでは、私たちにとって
ますます遠い存在になってしまいます。
額田2-5

お城をもっと身近にするため、
ある小さなまちにある
お城の話をしましょう。
この小さなまちのお城には、
大阪城の様な
立派な天守閣はありません。
熊本城のような見あげるほどの
石垣もありません。
かつてそこにお城があったことに
気づかせるわずかばかりの足あとと
深い森が支配するそのお城は、
額田城といいます。

額田2-7

額田城は
東京ドーム20個分の広さがあります。
それを、戦国最大級の城とまで
表現する人がいます。
歴史が大好きな私は、
佐竹氏にゆかりがあり、
伊達政宗の起請文が発見された額田城に
訪れることができることを知り、
うれしかったです。
でも、それはとてもすごい事だと思うし
興味もあったのですが、以前訪れた
長浜城で石田正澄の賞状を見た時ほどの
感動は起きませんでした。
なぜなら、この時の私は額田城の
本当の魅力に
まだ気がついていなかったからです。

額田2-9

額田の住宅地を歩いていると突然、
額田城の入り口を
見つけることができます。
駐車場に「ようこそ額田城跡へ」と
手書きで書かれた看板が緑の中から
顔を出しています。
この城あとには、
立派な天守も櫓も本丸もありません。
しかし、その看板の隣を通り、
額田城の中へ足をふみ入れると、
そこから先には、
不思議な世界が出現します。

額田2-11

あなたを迎えてくれるのは、
どこまでも果てしなく続く
深い緑の森です。
しかし、
森になってしまったこの城あとは、
なぜか歩きやすいはずです。
なぜなら、ふかふかとした
土のじゅうたんがしきつめられて、
遊歩道になっているからです。
その遊歩道をしばらく歩いていると、
額田城の住人たちに
会うことができます。
大きなキノコたちが、深い森から
さしこんだ木もれ日に照らされて、
笑っています。

額田2-13

額田城は、
とにかく緑がいっぱいです。
目をこらせば、小さい美しい花を
見つけることもできます。
額田城の二の丸のあとは
よく手入れされた
花だんになっています。
二の丸のあとをぬけていく
遊歩道を歩いて行くと、
紫陽花が迎えてくれます。
このあたりでは、運がよければ、
ユリの花とたわむれる
オオムラサキを見ることができます。

額田2-15

不思議なお城の旅を誘ってくれる
遊歩道には、所々に
小さな木のいすが置かれています。
そのいすに腰をかけると、
額田城のありのままの自然と
ゆっくり対話することが
できると思います。

額田2-17

太陽がそのまま照りつける7月、
今日は暑い。
それでも、額田城は
大きな緑に守られているので、
通り抜ける風はここちよく、
葉のすき間からもれる日の光の
やさしさを感じることができます。
木と木のすき間からは、
城の向こうにひろがる青々とした
田んぼが一面にひろがっているのが
見えると思います。
その風景は、あなたが子どものころ、
ジブリ映画の「となりのトトロ」で
見た風景そのものです。

額田2-19

額田城を歩いた私の体験を聞いて、
あなたはどのように感じましたか。
ジブリの映画に出て来るような
緑が美しい不思議なお城があることを
知ってもらったあなたに、
もう1つの
秘密の風景をこっそり教えます。
額田城の不思議な森の中に、
ひっそりとたたずんでいる
小さなお屋敷があることを。

額田2-21

そのお屋敷は、その昔、
三の丸があったところにあります。
小さな畑と手づくりのブランコが
印象的です。
あなたは、この家の持ち主が生活する
光景を思い浮かべるだけで、
とてもうらやましく感じる
ことでしょう。

額田2-23

朝起きて、家の窓を開けると、
額田城の森が育んだおいしい空気が
シャワーのように注ぎこんできます。
庭に出るだけで、
ありのままの自然とむきあえます。
森に「行ってきます」といえば、
森はやさしい風で
「行ってらっしゃい」と
見送ってくれます。
帰ってきたら、
森は、「お帰り」と迎えてくれます。

額田2-25

額田城の森に守られ、
森の住人と森の四季を楽しむ。
ふかふかのじゅうたんを歩き、
そしてあの大きなキノコやちょうと
笑いながら遊び、そして学ぶ。
この家に暮らしている子どもたちは、
毎日が新鮮でキラキラ輝いているに
ちがいありません。
 

戦国時代の城と聞いて、
あなたはどの様な印象を持ちますか。
過去の遺産、遠い存在。
しかし、
額田城はそうではありません。
人々の手によって手入れされた
花だんや遊歩道があります。
三の丸のあと地には、
住宅もブランコもあります。
戦国時代最大級の城、かつて
戦で重要拠点だった額田城には、
敵の動きを見張る櫓も、敵の侵攻を
防ぐための石垣もありません。
しかし、額田城は、いまも
昔と同じようにやさしく
人々の暮らしを見守っています。
額田城は、額田に住む人々に、
額田に訪れた人々に寄りそう
ステキなお城です。
 

 

 

額田2-後
 2017年2月15日 初版第1刷発行
取 材 :堀内 瑠那、福田 莉子
著 者 :堀内 瑠那
写 真 :堀内 瑠那、福田 莉子
編 集 :佐藤 里香
発行者 :日本地域資源学会
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