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額田まちの風土記 第14巻

額田まちの風土記 第14巻

額田駅

 

みんなの元気を応援する小さなホーム 額田14-表

朝はいつも、半分寝ぼけながら
自転車のペダルに足をかけている。
鳥の鳴き声が聞こえはじめ、
小さな踏切が見えたら、
自転車をこぐ足が速くなる。
息もぜえぜえと上がり、
白い息が顔をおおう。

額田14-3

林の中にひっそりとたたずんでいる
小さなホームが見えてきた。
私は自転車をとめてホームに向かう。
「おはよう」と心の中であいさつし
ホームのベンチにそっと腰をかける。
そして、線路の上を飛びかう鳥たちの
さえずりを聞いている。

額田14-5

ホームの白い柱はさびはじめ、
ベンチや張り紙の色が
あせているのが目についた。

額田14-7

ちょうど1年前の
1月の半ばのことであった。
夕方18時すぎに
額田駅に帰ってきた私は、
小さなホームに「ただいま」と
あいさつし、自転車のキーを
バックから出そうとした。
荒々しくバックをあさったが、
みつからない。
うっかりして、学校の机の中に
鍵を置いてきてしまったことを
思い出した。
 

あたりを見渡してみる。
小さなホームの明かりと
駐輪場の外灯だけが光り、
 

あたりは
まっ暗な静けさにつつまれている。
目の前の雑木林が、
明るい月を隠している。
 

歩いて帰るのには
時間がかかりすぎる。
そう思い、家に電話をした。
それから、足は自然と
小さなホームに向かっていた。
ひんやりと冷たいベンチに腰をかけ、
ポケットに手を突っ込んで、
むかえを待った。
 

チカチカとしたライトが、
私の恐怖心をあおるように
点滅している。
 

夜の冷たい空気が
身体中にしみわたるように
つま先から頭まで冷やしていく。
外から風がヒューヒュー泣くのが
聞こえてくる。
しかし小さなホームが、
風をしのいでくれていて、
寒い中にも小さな温かさを
感じることができた。
 

私の恐怖心をなだめるように、
何も言わずにしっかりと、
そして消えないようにと、
明かりをともしつづけ、
親のむかえを
いっしょに待ってくれた。
 

遠くの方から
汽笛の音が聞こえてきた。
大きなブレーキ音を立てて、
水郡線が停車した。

額田14-15

朝は「行ってきます」と
ベンチから立ち上がり、
列車に足を踏み入れる。
夕方は「おかえり」と
小さなホームが迎えてくれる。
額田駅の屈折のない距離感に
私はひかれている。

額田14-17

暑い日も寒い日も
朝も夜も
私をむかえ、送り出す額田駅。
私がとても大好きな場所。

額田14-19

 

 

 2017年2月13日 初版第1刷発行
取 材 :井上 勇輝、岩田 拓人、奥田 咲子
著 者 :久野 明日輝
写 真 :久野 明日輝、井上 勇輝
編 集 :畑岡 祐花
発行者 :日本地域資源学会
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