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瓜連まちの風土記 第6巻

瓜連まちの風土記 第6巻

瓜連のまちと常福寺

 

【瓜連用水】
みんながつないだ水の道

 大地を潤し、人と人を結んだふるさとの
 知恵とチカラが勇気をくれる
06表紙
◆民家の裏庭をぬけ、瓜連のまちをつらぬくようにして用水路がはりめぐらされている。高台に集落が形成された瓜連は、水を
確保することに悩まされてきた。名も知れぬ先人たちが、知恵とチカラを持ち寄り、那珂川と久慈川から水をひきいれた。高台の
上の方に雨水を貯めるためのため池をつくりあげた。
◆そのようにして、まち中にはりめぐらした水の道が瓜連用水である。今でも瓜連の人々の生活風景にとって欠かせないそれは、
この土地で生活する人々の暮らしを豊かにし、恵みを与えている。

私が瓜連を訪れたその日は
ちょうど二十六夜尊の真っ最中であった。

普段はひっそりしている瓜連のまちは
年に一度の縁日でたいへんにぎわっていた。
06-03

私の両親の実家は瓜連にある。
子どもの頃は毎年お祭りに連れていって
もらうのが楽しみであった。
思春期になりある程度親離れして以来
楽しみにしていたお祭りのことは
もうすっかり忘れてしまっていた。
思いもかけず
再び二十六夜尊に遭遇した私には
幼少の思い出が次々によみがえってきた。
06-05

そして
久しぶりの二十六夜尊という特別な日に
人々が持ち寄ってきたモノであふれる
常福寺の門前通りを目のあたりにでき
うれしさがはじけている
人々の笑顔にであうことができた。
06-07

地域資源の活用やにぎわい
ミュージアムを学んでいるいまの私が
ふるさとの人々が
はじめから意図することもなく
偶然につくりだした
そのハレの世界に
魅了されたのはいうまでもない。
06-09

その世界を楽しんでまちを歩いていた私は
いつのまにか小さな小道に迷いこんだ。

目の前には、長い下り坂がたたずんでいた。

その坂を数分下ってみると
小さな町に迷路のようにはりめぐらされた
用水路が目にとまった。
06-11

のぞきこんでみると
きれいにすきとおった水が流れていたので
びっくりした。

こんなまちの中で
限りなく透明に近い水の流れに出あうことが
できた私はその瞬間タイムスリップでもして
しまったかのような錯覚に陥ってしまった。
06-13

目を閉じて
さらさらとそよぐ水の音を聞いてみる。
それだけで
心がとてもおだやかになる。
06-15

道のべに 清水流るる 柳陰
しばしとてこそ 立ちどまりつれ
という歌を歌ったのは西行法師である。
06-17

二十六夜尊のにぎやかさと華やかさにふれた
その直後に、人と自然が結びついてうみだした
神聖な世界に出あうことができた私は、ただ
そこにいるだけで自分の今までのことを見つめ
なおし、自分とだけ向き合う時間が与えられて
いるような感覚を持つことができた。
そして、こんなステキな体験ができる瓜連の
まちに、底しれない魅力を感じた。
06-19

そんな感覚を呼び起こさせてくれる瓜連は、
わたしにとっては、まぎれもなくふるさとなの
である。
この小さな水の道が、人々に守られてきている
のは、利便性や先人への感謝の念を超越して、
それはいつも暮らしの傍らにあって誰にでも
自分と向きあうことができる瞬間をよびおこ
させてくれる装置があったからなのではないか
と私は考えた。
06-21

「上善は水のごとし」という故事がある。
水はとおい昔から、あらゆる人々にとって、
私たちに自然とのかかわり方、生き方をおし
えてくれる最高の「学びの道具」なのである。
ステキな哲学を育むことができる水の道が
いまも大切に守られている瓜連は、昔もいまも
幸せなまちである。
06-23

私の視点
06-25

私たちは、ほとんどのモノをお店で買い、買った
モノで生活することが豊かで便利であり、新しい
モノを持ち、使うことが美徳であるとする社会で
生きています。
瓜連のまちには、モノと産業の考え方で
あふれてしまったこの社会がすっかり忘れて
しまった大切なコトを思い出させてくれる宝物が
たくさんあります。
06-27

そのひとつが瓜連用水です。瓜連用水には、
限りなく透明に近い水が流れ、水の流れが
暮らしとともにあります。
そして、何より驚かされたのは、瓜連用水は、
実用という視点を超え、あすへの生き方や
思いを育むための暮らしの暗黙として大きな
チカラを持っていたことです。
06-29

その土地にあるモノをいまの暮らしにあわせて
活用する。そんなスタイルで生活する人々が
いること、それがステキな暮らしであるという
ことに気がついてほしいという思いをこめて、
私はこの作品を書きました。
この大切な場所を、瓜連の人々のチカラを
あわせてこれから先も守っていってもらいたい
と思います。
06-31

 

 2015年3月20日 発行
著 者 :小沼 光潤(常磐大学コミュニティ文化学科)
写 真 :森作 勇哉(常磐大学コミュニティ文化学科)
監 修  :塚原 正彦 常磐大学教授
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