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瓜連まちの風土記 第39巻

瓜連まちの風土記 第39巻

北城地区と田園風景

 

【人とともに生きた瓜連の野生動物】
野生動物との知恵くらべの博物館

 時を超えてくりひろげられた人と動物たちとの
 知恵比べの足あとがみえてくる
39表紙
◆瓜連では、手塩にかけて育てた田畑の作物を奪いに来るイノシシやキジとの知恵比べが、それぞれの家々に代々受け継がれてきた。
◆まちのシンボル白鳥も落ち穂を食べに来ることもあるという。
◆瓜連では、収穫の季節が近づくと、田畑をめぐる人と動物たちとの知恵比べがはじまる。

日本の昔話には、動物の出てくる話が多い。
犬や猫、牛と馬といった家畜だけでなく、今より
もっと里山が身近にあった時代には、狸や狐、
野うさぎといった小動物、イノシシや鹿、熊、
オオカミといった中・大型動物、さまざまな鳥類
など、枚挙にいとまがないほどの動物が身近に
いたからだろう。
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しかしいつしか、人と獣は住まいを分かち、
あえて接点を持たない生活に変わっていった。
日本人の生活スタイルの変化もあったし、
開発に伴う自然減少の影響も大きかった
ことだろう。
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もはや日本国内に一昔前、あたり前に存在して
いた自然と人との共存生活が見られにくくなって
いるのは自明のことのように思われる。たまに
ニュースに出てくる野生動物は、開発の進み
すぎた住宅地に餌を求めて現れる熊のように、
もはや人間にとっては厄介者以外の何物でも
ない。あるいはよほど人の気配のないうっそうと
した田舎で、今度は逆に人間が住むには過酷な
環境だったりもするから難しい。
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ところが仮にも関東六県のひとつ、茨城県の
地方都市、さして首都圏からも離れていない
瓜連では、いまだに少しほほえましい人と
獣の知恵比べが日常となっている。
それは、もしかしたら当事者にとっては深刻
なのかもしれないが、話を聞く側にとっては
不思議なのどかさを感じる物語である。
 

話を聞かせてくれたのは、山へと続く坂路の
途中、道端で座り込んで休憩していた、瓜連の
普通のおばあさんだった
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畑の天敵として有名なのはイノシシだが、
瓜連ではもっとやっかいな生き物がいる。
それはなんとキジ。
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キジは日本の国鳥でもあり、「町の鳥」に制定
されているため、まちの人々が駆除することに
気が引けるあまり見守ることしかできないという。
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とはいうものの、キジも畑の作物を遠慮なく
荒らしていくため、各戸工夫を凝らし、柵を
設けたりしているらしいが、走るのが速く、
下手とはいえ飛べるので、なかなか完全に
遮断することは難しいようだ。
収穫直前の野菜を食べられてしまうことも
さることながら、植えたばかりの種や出た
ばかりの若芽、葉などを食べられてしまう
のはやっかいらしい。
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ある程度食べられてしまうことをあきらめている
家もあるという。ある種共存を認めた形になって
いるようにも思う反面、人と獣の距離が近い生活
の中での、対策の難しさを実感する。
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一方、瓜連ならではの風景ともいえそうなのが、
稀に収穫後の田んぼでその姿が見られるという
白鳥だ。
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白鳥は田んぼを荒らしたりするようなことは
せず、落ち穂や成長の悪かった米などを
食べに来ているそうだが、やはり珍しい光景
だけに、その仕草に地元の人も立ち止まって
眺めてしまうほどとのこと。
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住人が当たり前のように語るこれらの光景は、
先般述べたように日本全体ではかなり珍しい
風景だ。
年々、人と獣が共存していた日本の原風景が
消えていくこの世の中で、今も残り続ける
生き物の姿かたちとそれを目にする人々との
暮らしは、形には残らない瓜連の宝物だろうと
思われる。
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瓜連の子ども達はこの風景をどのように
語り継いでいくのだろうか。
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 2015年3月20日 発行
著 者 :西野 万里子(日本地域資源学会)
写 真 :森作 勇哉(常磐大学コミュニティ文化学科)
監 修 :塚原 正彦 常磐大学教授
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