額田まちの風土記 第14巻
額田駅
みんなの元気を応援する小さなホーム | ![]() |
朝はいつも、半分寝ぼけながら 自転車のペダルに足をかけている。 鳥の鳴き声が聞こえはじめ、 小さな踏切が見えたら、 自転車をこぐ足が速くなる。 息もぜえぜえと上がり、 白い息が顔をおおう。 |
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林の中にひっそりとたたずんでいる 小さなホームが見えてきた。 私は自転車をとめてホームに向かう。 「おはよう」と心の中であいさつし ホームのベンチにそっと腰をかける。 そして、線路の上を飛びかう鳥たちの さえずりを聞いている。 |
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ホームの白い柱はさびはじめ、 ベンチや張り紙の色が あせているのが目についた。 |
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ちょうど1年前の 1月の半ばのことであった。 夕方18時すぎに 額田駅に帰ってきた私は、 小さなホームに「ただいま」と あいさつし、自転車のキーを バックから出そうとした。 荒々しくバックをあさったが、 みつからない。 うっかりして、学校の机の中に 鍵を置いてきてしまったことを 思い出した。 |
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あたりを見渡してみる。 小さなホームの明かりと 駐輪場の外灯だけが光り、 |
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あたりは まっ暗な静けさにつつまれている。 目の前の雑木林が、 明るい月を隠している。 |
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歩いて帰るのには 時間がかかりすぎる。 そう思い、家に電話をした。 それから、足は自然と 小さなホームに向かっていた。 ひんやりと冷たいベンチに腰をかけ、 ポケットに手を突っ込んで、 むかえを待った。 |
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チカチカとしたライトが、 私の恐怖心をあおるように 点滅している。 |
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夜の冷たい空気が 身体中にしみわたるように つま先から頭まで冷やしていく。 外から風がヒューヒュー泣くのが 聞こえてくる。 しかし小さなホームが、 風をしのいでくれていて、 寒い中にも小さな温かさを 感じることができた。 |
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私の恐怖心をなだめるように、 何も言わずにしっかりと、 そして消えないようにと、 明かりをともしつづけ、 親のむかえを いっしょに待ってくれた。 |
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遠くの方から 汽笛の音が聞こえてきた。 大きなブレーキ音を立てて、 水郡線が停車した。 |
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朝は「行ってきます」と ベンチから立ち上がり、 列車に足を踏み入れる。 夕方は「おかえり」と 小さなホームが迎えてくれる。 額田駅の屈折のない距離感に 私はひかれている。 |
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暑い日も寒い日も 朝も夜も 私をむかえ、送り出す額田駅。 私がとても大好きな場所。 |
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2017年2月13日 初版第1刷発行 | |
取 材 | :井上 勇輝、岩田 拓人、奥田 咲子 |
著 者 | :久野 明日輝 |
写 真 | :久野 明日輝、井上 勇輝 |
編 集 | :畑岡 祐花 |
発行者 | :日本地域資源学会 |
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