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額田まちの風土記 第26巻

額田まちの風土記 第26巻

マルテック

 

農の魔法を楽しく伝える学芸員 額田26-表

額田駅を降り、
真っすぐ続く道を歩く。
田んぼの景色がひろがる
のどかな道から
小さなわき道へ入ると
ビニールハウスがあらわれる。

額田26-3

このビニールハウスは、
まるで宝石のようにキレイな
野菜やフルーツが育つ
魔法のビニールハウスだ。
この魔法のビニールハウスで
甘い作物を育てているのが
額田がほこる農業の大先生、
成田丸さんである。

額田26-5

先生は
「ハウス栽培用炭酸ガス発生装置
らんたんさんの株式会社マルテック」
という会社の社長である。
先生はやさしい笑顔と
真っ赤なトマトを差し出して
私たちをむかえてくれた。
 

「どうぞ、
先ずは食べてみてください。」
トマトは窓から入る光を受け
ツヤを放っていた。
ツヤを放つそのトマトは
まるで宝石のルビーである。
 

宝石のトマトを口に運ぶ。
トマトの果肉が歯にふれ
果肉がはじける。

額田26-9

その時、
想像をしていなかったほどの
やさしい甘みが口の中を満たした。
太陽と土、キレイな水の栄養を
たっぷり浴びて育つ野菜の光景が
目の裏に浮かぶようだった。
 

新鮮でハリのある甘いトマトを
先生は得意げにほほえんで見せた。
「トマトが苦手だという人でも
食べられると言われているんですよ。」
 

トマトが苦手な人でも食べられる、
宝石のようなトマト。
まるで魔法だと私は思った。

額田26-13

どのような魔法を使ったのだろう。
その魔法の正体を
先生はほほえみながら教えてくれた。
 

「農業はね、
昔とちがって進化したんだよ。」
 

その昔、農業には農家の経験が
重要であると思われていた。
晴れや雨などの天気
土の良し悪し
水の質や種まきの時期などを知る
ためにはその土地を代々受け継いで
きた経験が重要な役割を果たした。

額田26-17

しかし、技術が進歩し
コンピューターが普及した現代では
きちんとデータをとり
コンピューターで管理する農業が
求められている。

額田26-19

ビニールハウスで温度と湿度を管理し
作物が1番おいしく育つ環境を
つくる理由は外の雨風を防いで
データで管理するからである。

額田26-21

様々なデータをとることで
どういう状況を保てば
おいしく育てられるか
それをつきとめることができる。
失敗してしまった場合は
何が悪かったのか
どこを改善すればよいのかを
把握することができる。
 

成田先生が育てる野菜やフルーツは
ビニールハウスでデータをとり
調節と研究をつづけ
大切に育てたモノである。
集めたデータをまとめ
調節と研究をくり返したその成果が
宝石のようなトマトなどの
野菜たちである。
 

成田先生は
このビニールハウスで育った
野菜やフルーツを近所の人たちに
くばっているという。
それを聞いた時
ご近所づきあいのためだろうと
考えた。

額田26-25

しかしそうではなかった。
成田先生には、研究のたまものである
野菜の味について
ありのままの声を聞くという
目的があった。

額田26-27

「今月のはイマイチだね。」
「この前の方がおいしかった。」
 

「おいしくなかった」という
答えが返ってきたら
データを見直し、
何がいけなかったのか
何が前回とちがったのか
それを調べ、改善するのだという。
 

人々の声とデータを照らし合わせて、
先生はこのトマトを
おいしく育てあげている。
 

太陽光と水に炭酸ガスがあること。
光合成の原理が1番大事なんです。
 

あたたかい太陽の光、
額田のキレイな水、
株式会社マルテックの
炭酸ガス発生装置「らんたんさん」。
 

光合成をするための3つの要素に加え
成田先生のデータの収集と研究が
縁結びして
甘い宝石のようなトマトが育った。
 

魔法の正体は、そこにあった。
 

ここまでの話で
額田が誇る農業の大先生成田さんが
農業の研究者であることが
わかってもらえたと思う。
しかし、成田さんは、
それだけではなかった。
 

成田さんは青森から九州まで
全国の農家の悩みや質問を
聞きまわっている教育者でもあった。
 

先日も栃木県の農を志す若者とあい
情報を交換してきたのだという。
 

自ら行った農業の研究の成果を
全国の農家に発信し
情報を共有しながら
改善の道をともに考える活動を
展開している。
 

そんな活動を展開している成田さんは
まさに額田が誇る農業の大先生
ではないかと私は思った。
 

 

 額田26-2-後

 2016年12月8日 初版第1刷発行
取 材 :堀内 瑠那
著 者 :堀内 瑠那
写 真 :堀内 瑠那
編 集 :畑岡 祐花
発行者 :日本地域資源学会
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