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瓜連まちの風土記 第15巻

瓜連まちの風土記 第15巻

らぽーると瓜連小学校

 

【海老根写真館】
みんなの思い出を記録
している物語博物館

 写真を撮った思い出から心にのこる
 物語にであうことができる
15表紙
◆海老根写真館は、親子がチカラをあわせ、昭和から平成の瓜連の人々が生きたドラマを記録し、保存してきた。
◆その貴重な記録は、東日本大震災で失われてしまったけれども、ふるさととの思い出を撮りつづけてきた学芸員がいる。
◆失われた写真をヒントにふるさとの喜びや悲しみをありのままに記録しようとしたみえない物語にであうことができる
ステキなギャラリーである。

海老根写真館が開業したのは、昭和12年、
西暦にして1937年である。

戦時中には軍からの依頼で那珂市にあった
飛行場を撮影する仕事を受け持っていた。

そのおかげで戦後まで残った数少ない写真館
の一つである。現在の店主は二代目である。
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彼は、なつかしそうに自分の父親が使用して
いた機材やその機材で撮影した写真を私たちに
見せてくれた。
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彼がみせてくれたコレクションの一つに、
今でいうフィルムに該当するガラス素材の
ハイパーパン乾板があった。

成人式の集合写真を撮影したものである。
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ハイパーパン乾板は一枚でもたいへんな重さ
になるが、熱でゆがむことがないので連続して
現像できるすぐれものである。

ガラス素材なので箱に入れて保管していたため、
2011年の東日本大震災の時に他の写真と
混ざることがなかった。そして、処分から逃れる
ことができた。
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私はそれを受け取り、じっと見つめていた。

私が生まれるずっと前にあった出来事を記録
しているこのガラスには、写っている人のみ
ならず、その家族や友人たちの喜びの思いと
記憶がこめられている。

そのことをまざまざと実感したからである。
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海老根さんに、開業当時使われていた
マグネシウム発光器、今でいうフラッシュに
関するエピソードを聞いた。

閃光粉をのせ、石で火花を散らして着火させる
ので、使用すると発光に続いて白煙もともなった
という。
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それを見た被写体の人々は、その様子に
拍手をして喜んだという。

写真を一枚撮るだけでも貴重な時代には、
写真のフラッシュさえも人々にとっては
感動の対象であった。
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このステキな学芸員から、一枚の写真が
つくりだす物語を聞くこともできた。

太平洋戦争の時代、人々は出征する前に
必ず写真を撮影して戦地に旅だっていった。

撮った写真は、家族が持っていたものもあれば、
戦地に持っていったものもあった。
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戦争が終わり、世の中が復興に向けて歩み
はじめている頃、海老根写真館で撮影された
写真を手に持ち、「戦死した仲間の写真を
家族に返したい」といって訪れてきた人がいた。

海老根さんは、その写真に写っている人物と
同じ苗字のお客さんにかたっぱしから電話を
かけ、弟にあたる人物を見つけることができた。

その弟さんは海老根写真館にやってきて、
写真を持ってきた人物に「ありがとう」といい、
抱きあい喜んだという。
海老根さんは、イベントや式典に出向いて
写真を撮影している。

特に学校関係の仕事が多いという。現在は
修学旅行のカタチも多様化し、生徒がタクシー
移動になり、グループ行動が増えて仕事の
仕方もすっかり変わってしまい大変だと
語ってくれた。
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昔とちがって、誰もが簡単に写真を撮れる
時代になったため、先生がデジカメで撮って
きた何百枚の写真を選別して卒業アルバムを
編集する作業が多くなってきているとも教えて
くれた。

なんと偶然にも、海老根さんは私の写真も
撮影していた。
海老根さんに見せてもらった写真の中に
数年前の那珂市の成人式の集合写真があった。
そこには、私の親戚が写っていた。驚いた私は
大きな声で「親戚が写っています!」と言って
しまった。そして私も今年、那珂市の成人式に
出席して集合写真を撮影している。

私の出身中学をいうと海老根さんは、当時の
ことをしっかりおぼえていた。私もなつかしくなり
うれしくなった。

一枚の写真が、そして一つの写真館が人々を
つないでいる。そしてその写真館も人々と
つながっている。それを私は自分自身の体験
としてまざまざと実感することができた。

東日本大震災で被災した人々は、写真を
探しまわった。

家族が、友だちが写っている写真を。

写真はただのデータや紙ではけっしてない。
それにかかわる人、すべての思いや記憶が
込められた宝箱である。

記憶に遺る写真を二代にわたり撮りつづけて
いる海老根写真館のご店主とのお話をとおし、
写真は人々の思い出をひきだす魔法の鍵で
あるとまざまざと実感した。
海老根写真館は、瓜連の思い出を記録する
物語博物館である。
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海老根写真館
住所:〒319-2102 茨城県那珂市瓜連1266-2
電話:029-296-0022

 

 2015年3月20日 発行
著 者 :大内 彩夏(常磐大学コミュニティ文化学科)
写 真 :森作 勇哉(常磐大学コミュニティ文化学科)
デザイン :宗形 朱梨(常磐大学コミュニティ文化学科)
監 修 :塚原 正彦 常磐大学教授
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